東京地方裁判所 昭和23年(ワ)1840号 判決
原告 村松英三
被告 日進電気株式会社
一、主 文
被告は原告にたいし、別紙目録<省略>記載の物件の引渡をすること。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は金一万円の担保を供して仮に執行できる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項同旨及「被告は原告にたいし昭和二十一年十一月一日以降物件引渡まで一ケ月金三千円の割合による金員の支拂をせよ」との判決並びに仮執行の宣言を求め請求原因として、前記物件は何れも原告の所有に係るものであるが、被告会社は昭和二十二年十一月一日より原告に対し無断で右物件を占有し毎日その社員を通勤させて「ラジオ」の修繕並に販賣に当らせているものである。即ち被告会社は右物件は占有すべき正当の権原がないのに拘らず不法にその占有を継続して原告の所有権を侵害しその結果原告に於て右物件を使用して営業を続けることによつてえらるべき收益に相当する少くとも一ケ月金三千円の損害を原告に加えているから、被告会社に対しその所有権に基いて右物件の引渡を求め且つ右侵害開始の時期である昭和二十二年十一月一日より右物件引渡済に至るまで一ケ月金三千円の割合による損害金の支拂を求めるため本訴に及んだ次第であると陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として原告主張の物件が原告の所有であることは認めるが、被告会社が右物件を占有している事実は否認する。即ち本件家屋は戰爭が激化して原告が疎開した後昭和二十年四月一日訴外笹川良一が原告より賃借期間同二十二年三月二十一日迄家賃一ケ月千二百円の約定で賃借したが、終戰後右笹川の財産管理人である訴外板倉彌三郎は原告に対しその住居部分を返還した。右訴外板倉は笹川の不在中本件家屋賃借の責任者となり原告も右を承諾していたが、同二十一年四月同訴外人は更に一階店舗中大半の使用権又び営業用ケースを無條件で原告に返還し更に同二十一年九月頃一階は本件係爭部分を残して他は全部原告に返還しその代りに同訴外人に於て二階を美容院に改造し賃借期間を延長し賃料を一ケ月金二千円とすることに原告及び同訴外人間の約定が成立した。同訴外人は一階に於て本件物件を使用してラジオの販賣修理業を営んでいて便宜上一時同訴外人の関係会社である被告会社のサービスステイシヨンであると云う木札を右物件の上に置いたこともあるが被告会社とは何等関係なく右営業者は訴外板倉であり本件物件の占有者も亦同人である。故に被告会社を占有者とする原告の本訴請求はすべて失当であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
証人中島修の証言によれば、別紙目録記載物件は、小田茂が被告会社の使用人として使用しており、又之に被告会社の標識もおかれてあり、且之が所在する村松時計店に被告会社宛の電話がかかり、郵便物が配達されている事実を認めることができ、証人小田茂の証言によれば、同証人が原告の店員にたいして右物件を使用して被告会社がラジオ商の営業を開始しようとしていると語つた事実が認められ、又証人藤原常吉の証言によれば、板倉彌三郎は被告会社の専務取締役でもあり、又同証人は現在被告会社の役員であるが、昭和二十三年四月迄右板倉が支配する銀星百貨店の専務取締役の地位にあつて、被告会社と板倉彌三郎及藤原常吉は極めて密接な関係にあつて、本件物件による営業開始の際にも商品の一部を統制機関から配給を受ける必要上被告会社諒解の下に本件物件上に被告会社の標識を置いただけでなく、別紙目録記載の建物の入口に被告会社の看板を出してあつた事実を認めることができる。以上の事実と、成立に爭のない甲第一、二号証(いづれも仮処分調書)に、右物件は被告会社の占有に関する旨を、之に対する仮処分に立会つた小田茂が供述した旨記載されている事実を合せて考えると、右物件は被告会社において占有しているものであることがうかがわれ、証人板倉彌三郎及び藤原常吉の、「右物件は板倉彌三郎が原告より賃借使用しているものであつて、之に被告会社の標識を附したのは、ラジオ部分品の配給を受ける便宜のためにすぎない」旨の証言は、信用することができない。
しかして別紙目録記載の物件が原告の所有に属することは当事者間に爭がなく、被告会社においてこれを占有使用しうる権限の主張はないから、被告会社は之を原告に引渡す義務があることが明らかである。次に証人板倉彌三郎の証言によると同人が本件物件を賃借している事実が認められるから、被告会社が之を使用する権限を有していなくても、原告も本件物件を使用することはできないわけであつて、之を使用しないことによつて損害が発生することは考えられない。從つて、原告の損害金の請求は棄却されるべきものである。
よつて原告の請求中物件引渡の部分を認容し、その余を棄却し訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二條を、仮執行の宣言については同法第百九十六條を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 小林哲朗)